害獣の対策リサーチ

ハクビシンが嫌がる音とは?超音波の効果と慣れてしまう理由

屋根に上ったハクビシン

夜中に天井裏から聞こえる「トコトコ」という不気味な足音。大切な家が荒らされているかと思うと、不安で眠れなくなりますよね。

「できればハクビシンを傷つけずに、自分たちで静かに追い払いたい!」

そう考えて、手軽に試せる「ハクビシンが嫌がる音」での対策を検討されている方も多いのではないでしょうか。

私も最初はそうでした。しかし、色々と調べるうちに、「音」による対策には知っておくべき重要な「限界」があることが分かってきたのです。

この記事では、ハクビシンが苦手とする音の種類と、なぜそれだけでは追い出しきれないのか、その理由を詳しく解説します。

ハクビシンが嫌がる音とは?苦手とする「3つの音」

ハクビシンは、本来とても警戒心の強い動物です。人間が暮らす住宅街に現れるとはいえ、基本的には「見つかりたくない」「危険な目には遭いたくない」と考えて行動しています。

そのため、普段聞き慣れない音や、身の危険を本能的に感じさせる音に対しては敏感に反応します。

一般的に「ハクビシン対策に有効」として紹介されることが多いのは、大きく分けて以下の3種類の音です。

音の種類具体的な例期待される効果(狙い)
超音波・高周波モスキート音、専用の超音波撃退器、動物用忌避アプリ人間には聞こえにくい不快な高音域の音で、その空間を「居心地が悪い」と感じさせる。
天敵の鳴き声オオカミ、大型犬、タカやワシなどの猛禽類の鳴き声「近くに天敵がいるかもしれない」という本能的な恐怖心をあおり、危険を感じさせて遠ざける。
突発的な騒音爆竹、防犯ブザー、掃除機の音、金属を叩く大きな音静かな場所で突然大きな音を出して驚かせ(威嚇)、パニックを起こさせて一時的にその場から逃げ出させる。

それぞれの音が、どのような理屈でハクビシンに効くと考えられているのか、もう少し詳しく見ていきましょう。

超音波・モスキート音(人間には聞こえにくい高周波)

「超音波」とは、一般的に人間の耳には聞こえない、非常に高い周波数の音のことです。人間が聞き取れる音の範囲(可聴域)は、およそ20Hz~20kHzと言われていますが、ハクビシンはこれよりも高い音を聞き取ることができるとされています。

この性質を利用し、「人間には静かだけど、ハクビシンにだけは大騒音に聞こえる」ような環境を作り出して追い払おう、というのが超音波対策の狙いです。

市販グッズや動画も多いが…

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ホームセンターやネット通販では、ソーラー充電式で庭に設置するタイプや、コンセントに差し込んで屋内で使うタイプの「超音波撃退器」が数多く販売されています[cite: 18]。
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また、最近ではYouTubeなどの動画サイトで「ハクビシンが嫌がる音」として、特定の高周波音(キーンというモスキート音など)を長時間流し続ける動画もアップロードされていますし、スマートフォン用の害獣よけアプリなどもあります[cite: 20, 21]。これらは手軽に試せるため、最初の対策として選ばれることが多いようです。

天敵の鳴き声(オオカミ・犬・タカなど)

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野生動物にとって、天敵の存在は死に直結する最大の脅威です。ハクビシンにとっての天敵である、オオカミ(日本では絶滅していますが、本能的な恐怖は残っていると言われます)、大型の犬、空から襲ってくるタカやワシといった猛禽類の鳴き声を流すことで、「ここは危険なエリアだ」と認識させる方法です[cite: 39]。

姿が見えなくても、鳴き声がするだけで「近くに潜んでいるかもしれない」と警戒させ、その場に近づきにくくさせる効果を狙っています。

突発的な大きな音(爆竹・掃除機・ブザー)

これは単純ですが、即効性のある方法です。例えば、静かにリラックスしている時に、いきなり耳元で風船を割られたら、誰だって飛び上がって驚きますよね。警戒心の強いハクビシンならなおさらです。

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屋根裏で物音がした時に、天井を棒でドンドンと叩いたり、屋根裏に向けて爆竹を鳴らしたり、掃除機のスイッチをオン・オフして大きな音を出したりすると、ハクビシンは「ヤバい!」と驚いて(専門的には「驚愕反応」と言います)、一時的にその場から逃げ出すことがあります[cite: 44, 45]。

ここがポイント!
これらの音は、確かにハクビシンに「警戒」や「確認」といった反応をさせる効果はあります。しかし、それが「この場所は恐ろしいから二度と近づかないでおこう」という永続的な「忌避(きひ)」につながるかというと、話は別です。多くの人がここで誤解をしてしまい、対策に失敗しているのが現実なんです。

なぜハクビシンは「嫌がる音」ですぐに戻ってくるのか?

「超音波発生器を置いたのに、数日でまた足音が聞こえ始めた」
「最初は効果があったみたいだけど、最近は全く気にしている様子がない」

残念ながら、多くの専門家や経験者は「音だけの対策でハクビシンを完全に駆除することは難しい」と口を揃えます。それはなぜなのでしょうか?

そこには、動物ならではの「賢さ」と、物理的な「音の性質」が関係しています。

すぐに効果がなくなる「慣れ(順化)」という学習能力

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ハクビシンが音対策ですぐに戻ってきてしまう最大の理由は、彼らの高い学習能力による「慣れ(順化)」です[cite: 10, 61]。

「安全だ」とバレてしまう

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野生動物は、生きていくために無駄なエネルギーを使わないようにする習性があります。もし、風で葉っぱが揺れる音や、遠くの車の音など、自分に害のない全ての音にいちいち驚いて逃げ回っていたら、エサを探す時間もなくなり、疲れ果てて死んでしまいますよね[cite: 63]。
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そのため彼らは、未知の音に対して最初は警戒しますが、その音が鳴っても「自分に痛みはない」「襲ってくる敵は現れない」と分かると、それを「無害な環境音」として学習し、無視できるようになります。これが「慣れ」です[cite: 64]。

一度「この音はハッタリだ」と見抜かれてしまえば、もうその音で彼らを追い払うことはできません。私たち人間が、線路沿いに住んでいても電車の音に慣れて眠れるようになるのと似ています。

研究でも確認された「反応はするけど逃げない」実態

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実際、麻布大学で行われた研究では、ハクビシンに様々な周波数の超音波を聞かせたところ、耳を動かしたり音源の方を見たりする「反応」は示したものの、そこから逃げ出したり嫌がったりするような明確な「忌避行動」は見られなかった、という報告もあります[cite: 26, 27]。
つまり、「音は聞こえているけれど、別に嫌がってはいない」という可能性が高いのです。

超音波は「壁」や「断熱材」を突き抜けられない

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音の性質による物理的な限界もあります。特に超音波のような高い周波数の音は、「光のように真っ直ぐ進む性質(直進性)」が強く、物に当たると跳ね返りやすいという特徴があります[cite: 51]。
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ハクビシンが巣を作っている屋根裏や壁の中は、柱や梁(はり)、断熱材などが複雑に入り組んだ空間です。もし、人間が居住スペース側から天井に向けて超音波を流しても、天井板や断熱材に阻まれて、肝心のハクビシンがいる場所まで音が届いていないケースが非常に多いのです[cite: 51]。

これでは、どんなに強力な機械を使っても効果は期待できません。

近隣トラブルやペットへの悪影響(騒音問題)

音による対策は、ハクビシンだけでなく、周囲の人間やペットにも影響を及ぼすリスクがあります。

  • ご近所トラブルのリスク:
    夜中に爆竹を鳴らしたり、大音量のブザーを仕掛けたりすれば、当然ながら近隣住民にとっては「騒音」となります。ご近所トラブルに発展しては元も子もありません[cite: 53]。
  • 大切なペットへのストレス:
    犬や猫は人間よりもはるかに耳が良く、超音波の音域も聞き取ることができます。ハクビシンを追い払うつもりが、愛犬や愛猫がずっと嫌な音を聞かされ続け、食欲不振やストレス性の体調不良を引き起こしてしまう可能性があります[cite: 53]。
  • 子供や若者への影響(モスキート音):
    加齢とともに高音は聞こえにくくなりますが、子供や10代?20代の若い人には、モスキート音が「キーン」という非常に不快な耳鳴りのように聞こえることがあります。家族に体調不良を訴える人が出る可能性もゼロではありません[cite: 53]。

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対策方法メリットデメリット・限界専門家の推奨度
超音波設置が簡単、人間(大人)には静か効果の科学的根拠が薄い、壁で遮られる、ペットへの悪影響★☆☆☆☆
(非推奨・気休め程度)
天敵の鳴き声本能的な警戒心を利用できるすぐに慣れる、音を定期的に変える手間が必要★★☆☆☆
(一時的な効果のみ)
大きな音
(威嚇)
即効性がある、一時的に追い出せる可能性が高い騒音トラブルの危険、持続性がない(すぐ戻る)★★☆☆☆
(追い出しの一時的手段)

【参考】音以外でハクビシンが嫌がるものはある?

「音」がダメなら、他の感覚を攻めるのはどうでしょうか?

ハクビシンの「嗅覚(におい)」や「視覚(光)」を刺激する方法も、よく知られています。ここでは、今後の参考のために簡単に触れておきます。

嫌がる「臭い」(忌避剤・木酢液など)

ハクビシンは嗅覚が非常に優れているため、強い臭いを嫌う傾向があります。

  • 木酢液(もくさくえき): 焚き火のような焦げ臭いにおいで、山火事を連想させて警戒させます。
  • 忌避剤: トウガラシの辛味成分(カプサイシン)や、ハーブ系の強い香りを配合した市販品です。
  • 天敵の臭い: オオカミの尿(ウルフピーなど)を利用して、本能的な恐怖心を呼び起こします[cite: 81]。

これらも一時的には効果がありますが、音と同じく「慣れ」が生じやすいのが欠点です。また、雨風で成分が飛んでしまうため、こまめに撒き直す手間もかかります。

嫌がる「光」(青色LED・強いフラッシュ)

夜行性のハクビシンは、暗闇で突然強い光を浴びることを嫌います[cite: 86]。

  • センサーライト: 動物の動きを感知して、強力なフラッシュ光を浴びせる装置です。
  • 青色LEDライト: イノシシ対策などでも使われますが、青色の光を警戒する性質を利用した点滅ライトなども市販されています。
  • キラキラするもの: CDや反射テープなどを吊るして、光の乱反射で警戒させる方法もあります(これは鳥対策に近いですが、多少の効果は期待できます)。

メモ:
「臭い」や「光」も、音と同様に決定打にはなりにくいのが現実です。特に都市部のハクビシンは、街灯や車のライト、様々な人工的な臭いに慣れているため、田舎の個体よりも効果が薄いとも言われています。「他の対策と組み合わせることで、少しでも居心地を悪くする」くらいの補助的な役割と考えておくのが無難です。

音よりも確実!ハクビシンを二度と寄せ付けない根本対策

ここまでお話しした通り、「音」「臭い」「光」といった感覚に訴える対策は、あくまで一時的な時間稼ぎに過ぎません。では、どうすればハクビシンの恐怖から完全に解放されるのでしょうか?

答えはシンプルです。「物理的に家の中に入れないようにする」こと。これしかありません。

最強の対策は「侵入経路の完全封鎖」

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ハクビシンがあなたの家に執着するのは、そこが「外敵から身を守れる、安全で快適な寝床」だからです。いくら嫌な音がしても、外で凍えたり他の動物に襲われたりするリスクよりはマシだと判断すれば、彼らは居座り続けます[cite: 67, 71]。
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だからこそ、嫌がる音などで一時的に外へ追い出した隙に、彼らが出入りしていた「入り口」を物理的に塞いでしまうことが、最も確実で唯一の根本解決策になります[cite: 93]。
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具体的には、パンチングメタル(小さな穴がたくさん開いた金属板)や頑丈な金網(ラス網など)、コーキング材などを使って、二度とこじ開けられないようにガッチリと塞ぎます[cite: 103]。彼らの鋭い爪や牙でも壊せない素材を選ぶことが重要です。

わずか8cm四方の隙間も見逃さないこと

「家の周りを見たけど、そんな大きな穴はなかったよ?」と思うかもしれません。しかし、ここが最大の落とし穴です。

ハクビシンは見た目以上に体が柔らかく、細長い体型をしています。頭さえ通れば、その後の体はスルリと通り抜けてしまうのです。
[cite_start]研究機関の実験データによると、成獣(大人のハクビシン)であっても、以下のような信じられないほど小さな隙間から侵入できることが分かっています[cite: 97]。

  • 正方形なら:一辺約8cm(タバコの箱の縦の長さより少し小さいくらい)[cite: 98]
  • 円形なら:直径約9cm(ソフトボールくらいの大きさ)[cite: 99]
  • 長方形なら:6cm × 12cm といった細長い隙間でもOK[cite: 100]

(出典:ハクビシンは狭い隙間から侵入できる|農研機構

通風口、屋根が重なる部分の隙間、エアコン配管の導入部の隙間、床下の通気口…。築年数が経った日本家屋には、こうした「名刺サイズ」程度の隙間が無数に存在します。これらを一つ残らず見つけ出し、全て塞がなければ、被害は確実に再発します。

注意:自分で捕まえるのは法律違反!?
「入られないようにするより、捕まえてしまった方が早いのでは?」と思うかもしれませんが、ハクビシンは「鳥獣保護管理法」という法律で守られている野生動物です。
[cite_start]許可なく勝手に罠を仕掛けて捕獲したり、傷つけたりすることは法律で禁止されており、違反すると「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」という非常に重い罰則が科せられる可能性があります[cite: 118, 119]。
自力での対策は「追い出し」と「侵入防止(封鎖)」に留め、捕獲は絶対にしないよう注意してください。

完全駆除を目指すなら専門業者の力も借りる

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正直なところ、素人が家中のすべての小さな隙間を見つけ出し、高所作業で完全に塞ぐというのは、技術的にも体力的にも非常にハードルが高いです。また、屋根裏には彼らが残した大量のフンや尿があり、そこから病原菌やダニ・ノミが広がる二次被害のリスクもあります[cite: 128, 132]。

「音を鳴らしてみたけれど効果がない」「何度も戻ってきてしまう」というイタチごっこ(ハクビシンですが)に疲れてしまった方は、被害が拡大して家がボロボロになる前に、専門の駆除業者に相談することを強くおすすめします。

プロの業者は、ハクビシンの習性を熟知しており、私たちが思いもしないような場所にある侵入経路を特定し、適切な資材で確実に封鎖してくれます。さらに、危険なフンの清掃や消毒まで任せられるので、精神的にも肉体的にも負担が大幅に軽くなります。

対策の種類具体的な方法効果の持続性総合評価
感覚への刺激
(一時しのぎ)
超音波、忌避剤、ライトなど短期間
(慣れると効果がなくなる)
△ あくまで補助的な対策
環境の管理
(予防)
エサになる生ゴミの管理、庭木の剪定、雑草の除去中長期
(継続が必要)
○ 被害を防ぐための基本
物理的な防除
(根本解決)
侵入口の完全封鎖、金属板や金網の設置恒久的
(一度やればずっと安心)
◎ 唯一の確実な解決策

まとめ:ハクビシンは「嫌がる音」に慣れてしまう!

ハクビシン対策における「音」の効果と限界について、詳しく解説してきました。今回の要点をまとめます。

  • ハクビシンは「超音波」「天敵の鳴き声」「突発的な大きな音」を最初は警戒する。
  • しかし、学習能力が高いため、危害がないと分かるとすぐに「慣れて」しまい、効果は長続きしない。
  • 超音波は、壁や断熱材などの障害物に遮られやすく、複雑な屋根裏の奥まで届かないことが多い。
  • 音は「一時的な追い出し」に使い、その隙に「侵入経路を物理的に完全封鎖」するのが最も確実な対策。
  • わずか8cm四方の小さな隙間からでも侵入するため、徹底的な封鎖が必要。

「手軽に音だけで何とかしたい」という気持ちは痛いほど分かります。ですが、相手も生きるために必死な野生動物です。中途半端な対策では、こちらの根気が先に尽きてしまいます。

「音」はあくまで一時しのぎのツールと割り切り、早めに根本的な対策(物理封鎖)へとステップアップすることが、平穏な生活を取り戻す一番の近道です。

無理をせず、時には専門家の知恵も借りながら、大切な家をしっかりと守っていきましょう。

-害獣の対策リサーチ